「人が見える」と親が言ったら|レビー小体型認知症の幻視と初期のサイン

「部屋の隅に知らない人が座っている」「床を小さな虫が歩いている」。高齢の親から、実際にはいないはずのものについて真剣な顔で話されると、どう受け止めればよいのか戸惑ってしまいますよね。疲れているだけなのか、それとも何かの病気なのかと、不安になるご家族も多いはずです。

こうした「見えないはずのものが見える」体験は、幻視と呼ばれます。幻視はレビー小体型認知症で比較的早い時期から現れやすい症状の一つとして知られており、気づきのきっかけになることがあります。

この記事では、レビー小体型認知症の特徴と幻視の現れ方、ほかに気にしておきたい変化、そして家族としての向き合い方や相談のタイミングについて整理します。

レビー小体型認知症はどんな認知症?

アルツハイマー型認知症、血管性認知症と並んで、三大認知症の一つに数えられているのがレビー小体型認知症です。認知症というと「もの忘れ」を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、この病気には次のような特徴があります。

  • 記憶の障害よりも、調子の良い日と悪い日の差など、症状の波が目立ちやすい
  • 早い段階から幻視が見られることが多い
  • 体が動かしにくくなる、歩幅が小さくなるといったパーキンソン症状を伴うことがある

初めのうちはもの忘れがそれほど目立たないため、「まだしっかりしているから大丈夫」と思われやすく、気づくのが遅れがちな面があります。幻視をはじめとする特徴的な変化を知っておくことが、早めの相談につながります。

幻視とはどのような症状?

本人にはとてもはっきり見えている

レビー小体型認知症の幻視は、ぼんやりした影のようなものではなく、細かなところまで具体的に見えるのが特徴とされています。見えている人の服装や人数、動物の様子などを詳しく説明できることも少なくありません。

よく聞かれる内容には、次のようなものがあります。

  • 見知らぬ人が部屋の中にいる
  • 子どもや犬、猫などの動物がいる
  • 床や壁を虫がはっている

うそや思い込みではない

家族が知っておきたいのは、本人はうそをついているわけでも、ふざけているわけでもないということです。本人にとっては、目の前に本当に存在するものとして見えています。

そのため、周りが「何もいない」と言っても納得できず、かえって「どうして信じてくれないのか」と不安や孤独を深めてしまうことがあります。

幻視とあわせて気にしておきたい変化

レビー小体型認知症では、幻視のほかにも次のような変化が組み合わさって現れることがあります。

  • 日によって、あるいは時間帯によって、話の理解や受け答えの様子が大きく変わる
  • 動きがゆっくりになる、表情が乏しくなる
  • つまずきや転倒が増える
  • 眠っている間に大きな声で寝言を言ったり、手足を激しく動かしたりする

どれか一つだけで判断することはできません。大切なのは、いくつかの変化が重なっていないかを、日々の様子から見ていくことです。気づいたことを家族で共有しておくと、受診の際にも役立ちます。

「見える」と言われたときの向き合い方

否定や笑いでかわさない

「何もいないよ」「気のせいでしょう」「また変なことを言って」といった言葉は、家族としては安心させるつもりでも、本人の恐怖や戸惑いを強めてしまうことがあります。見えているという体験そのものは、否定しないようにしましょう。

まずは気持ちに寄り添う

本人が感じている驚きや怖さに目を向け、「それは驚いたね」「怖い思いをしたね」と気持ちを受け止めます。見えているものの真偽を議論するより、本人が落ち着けることを優先します。

そのうえで、「もう大丈夫だよ」「ここには私がいるから安心してね」など、ほっとできる言葉をかけてみましょう。一緒にその場所を確かめたり、別の部屋へ移って気分を変えたりするのも一つの方法です。

見え方に影響しやすい環境を整える

部屋の環境を少し見直すことで、幻視が起こりにくくなる場合もあるといわれています。

  • 部屋の明るさを保ち、薄暗い場所をつくらない
  • 影ができにくい照明の位置や種類を選ぶ
  • カーテンや壁紙などの模様、つけっぱなしのテレビなど、目に入る刺激を見直す

早めに受診することの大切さ

レビー小体型認知症は、薬の選び方に注意が必要な認知症とされています。早めに専門の医師の診断を受けることで、本人の状態に合った治療や対応を考えやすくなります。

また、病気の特徴がわかると、家族も「なぜこんなことを言うのか」が理解しやすくなり、戸惑いが減っていきます。暮らしの工夫を考えるうえでも、診断は大切な手がかりになります。

受診の際は、次のようなことをメモして持っていくと、医師に状況を伝えやすくなります。

  • いつごろから、どのようなものが見えると話しているか
  • 見えると話すのは、どんな時間帯や場所が多いか
  • 幻視以外に気になっている体や睡眠の変化
  • 現在飲んでいる薬の種類

迷ったときは身近な窓口へ

「病院に行くほどではないかもしれない」「でも何となく気がかり」。そう感じたときの感覚は、大切にしてよいものです。様子を見るか迷う段階でも、まずはかかりつけ医に相談してみましょう。必要に応じて、もの忘れ外来などの専門の医療機関を紹介してもらえることがあります。

介護や今後の暮らし方について相談したいときは、地域包括支援センターも頼りになります。家族だけで抱え込まず、早いうちから相談先とつながっておくと安心です。

まとめ 「見える」という言葉の奥にある不安に目を向けて

実際にはいないものが見えるという訴えは、レビー小体型認知症のサインの一つである可能性があります。本人にははっきりと見えているからこそ、否定せずに気持ちを受け止め、安心できる声かけや環境づくりを心がけることが大切です。

症状の波や体の動き、睡眠中の様子など、ほかの変化にも気を配りながら、気になることがあれば早めに医療機関や相談窓口を頼りましょう。早く気づくことは、本人の安心と家族の心のゆとりを守ることにつながります。