認知症の「盗み癖」への対策 物盗られ妄想に家族ができる対応

親から突然「あなたが財布を取ったでしょう」と責められたり、訪問してくれているヘルパーさんを犯人だと言い出されたりすると、家族は驚き、言葉を失ってしまうものです。身に覚えのない疑いをかけられるつらさは、介護をしている人ほど深く心に残ります。

認知症のある方が「盗まれた」と繰り返し訴える行動は、いわゆる「盗み癖」として相談されることがありますが、多くの場合、その背景には記憶の変化や不安が隠れています。仕組みを知っておくだけでも、受け止め方は少し変わってきます。

この記事では、訴えが起こる背景と、家族ができる関わり方、こじらせやすい対応、相談先や施設を考えるタイミングまでを順に整理します。

「盗まれた」という訴えの背景にあるもの

認知症の方が物をなくしたと訴える場合、「物盗られ妄想」と呼ばれる症状がかかわっている場合があります。自分でしまったことを忘れてしまい、見当たらない理由を「誰かが持っていった」と考えてしまう状態です。

こうした訴えが起こりやすい背景としては、次のようなことが挙げられます。

  • しまった場所や、しまったこと自体を覚えていられない
  • 出来事の前後関係がつながりにくくなっている
  • 一人で過ごす時間が長く、心細さや不安が募っている
  • 住まいの変化や体調の崩れが影響している

対象になりやすいのは、財布や現金、通帳、印鑑、鍵など、本人が大切に管理してきた物です。大事な物だからこそ、見つからないときの不安が大きくなるとも考えられます。

決めつけずに状況を確かめる

一方で、訴えがすべて認知症の症状から来ているとは言い切れません。本当に誰かが物を動かしていたり、別の事情が隠れていたりすることもあります。「また妄想だ」と最初から決めつけず、まずは落ち着いて状況を確かめることが大切です。

対応の基本は不安を受け止めること

家族から見れば明らかな勘違いでも、本人にとっては大切な物がなくなったという深刻な出来事です。まずは、その不安な気持ちに寄り添うことを意識してみましょう。

たとえば、次のような言葉が助けになることがあります。

  • 「大事な物が見つからないと心配になるよね」
  • 「一緒に探してみようか」
  • 「最後に使ったのはいつだったか、ゆっくり考えてみよう」

ここで大切なのは、自分の潔白を証明することよりも、本人の気持ちを落ち着かせることを優先する点です。一緒に探して見つかったときも、「ほら、自分でしまっていたでしょう」と指摘するより、「見つかってよかったね」と安心を共有するほうが、その後の関係を穏やかに保ちやすくなります。

こじらせやすい関わり方

何度も疑われると、つい感情的になってしまうのは無理もないことです。ただ、以下のような関わり方は本人の心細さを強め、かえって訴えが激しくなる原因になることがあります。

  • 「盗るわけがない」と頭ごなしに否定する
  • 大きな声で責めたり、怒ったりする
  • しまった場所を無理に思い出させようとする
  • 家族が何人もで取り囲んで説得する
  • 「またその話」と取り合わずに突き放す

とはいえ、いつでも冷静に対応できる人はいません。自分が疲れていると感じるときは、いったんその場を離れたり、ほかの家族や介護の専門職にバトンタッチしたりしてかまいません。

訴えを減らすための暮らしの工夫

物の定位置を決める

財布や鍵などは、いつも同じ場所に置く習慣をつけましょう。本人の手が届きやすく、目に入りやすい場所を選ぶと、探し回る場面を減らしやすくなります。

大切な物の管理方法を話し合う

通帳や印鑑、まとまった現金をどう管理するかは、本人の気持ちや権利を大切にしながら、家族で相談して決めましょう。家族が一方的に預かってしまうと、それ自体が新たな疑いのきっかけになることもあるため、本人が納得できる方法を探ることが大切です。

訴えがあった状況を書き留める

いつ、どこで、何がなくなったと言っていたのかを簡単にメモしておくと、時間帯や場所、生活の変化との関係が見えてくることがあります。相談の際の資料としても役立ちます。

関わる人の間で情報をそろえる

対応を一部の家族や一人のヘルパーに背負わせるのではなく、ケアマネジャーも交えて様子を伝え合っておきましょう。関わる人の対応がそろうと、本人も介護する側も安心しやすくなります。

家族以外の人が疑われたとき

ヘルパーさんなど、介護に関わる職員が疑われてしまうこともあります。その場合も、本人の言い分をはじめから退けるのではなく、まずは何があったのかを確かめましょう。訪問介護の事業所や担当のケアマネジャーに状況を伝えて情報を共有し、一人の職員に負担が集中しないよう、関係者で対応を考えていくことが大切です。

専門職への相談と、施設という選択肢

同じ訴えがたびたび繰り返され、家族関係や日々の生活にまで影響が及んでいるなら、主治医や担当のケアマネジャーに一度相談してみましょう。とくに症状が急に強くなったときや、いつもと違う混乱、体調の変化が見られるときは、原因を認知症だけに求めず、医療機関で診てもらうことが大切です。

家族だけで支えるのが難しいときは、ヘルパーの訪問やデイサービスといった在宅のサービスを取り入れる方法もあります。さらに、以下のような状態がいくつも当てはまるようになったら、老人ホームなど高齢者施設への入居を検討することも選択肢の一つです。

  • 家族が疑われることが日常的に続いている
  • 介護する人の心や体が限界に近づいている
  • 本人が一人で過ごす時間の安全に不安がある
  • 自宅での関わり方に行き詰まりを感じている

ひと口に認知症の方を受け入れる施設といっても、どこまでの症状に対応できるか、医療や介護の体制がどうなっているかは施設ごとに違います。本人の状態や希望、家族の事情を踏まえて、どのような支援が受けられるかを確かめながら選んでいきましょう。

まとめ 一人で抱え込まずに周りを頼りましょう

「盗まれた」という訴えの多くは、記憶の変化や心細さから生まれるものです。否定や説得で解決しようとするよりも、不安を受け止め、物の置き場所や管理の仕方を見直すほうが、穏やかな日々につながりやすくなります。

疑われ続けることは、介護する人にとって大きな負担です。気持ちが疲れ切ってしまう前に、主治医やケアマネジャー、地域包括支援センターなどに相談し、家族だけで抱え込まない体制をつくっていきましょう。