帰省で家族がそろったら話したい親の介護|施設を考える前の確認事項
お盆や年末年始の帰省、法事や誕生日など、離れて暮らす家族が一堂に会する日は、一年のうちそう多くはありません。顔を合わせたその時間を使えば、電話ではつい後回しにしてしまいがちな「親の今後の暮らし」を、じっくり話し合うこともできます。
とはいえ、元気に暮らしている親に向かって、いきなり「老人ホームはどうする?」と聞くのは気が引けるものです。親のほうも、自分の老いを突きつけられたように感じて、身構えてしまうかもしれません。
この記事では、家族が集まったときに無理なく話しておきたいテーマと、話し合いを進めるときの心構えを整理しました。施設のことを考えるのは、そのあとでも遅くありません。
なぜ「何も起きていない今」話しておきたいのか
介護は、ある日突然始まることが少なくありません。転んで骨折した、急な病気で入院した、といった出来事をきっかけに、家族は短い時間で多くのことを決めなければならなくなります。
そのとき、本人がどう暮らしたいと思っていたのかを誰も知らなければ、家族は手探りで判断するしかありません。あとになって「本当はどうしたかったのだろう」と迷いや後悔が残ることもあります。親がまだ元気で、自分の言葉で希望を話せるうちに少しずつ聞いておくことは、親にとっても家族にとっても安心につながります。
話し合いの前に持っておきたい3つの心構え
一度で結論を出そうとしない
親の考えは、体の調子や暮らしの状況によって変わっていくものです。一回の話し合いですべてを決める必要はありません。「こういうときはどうしたい?」と少しずつ聞き、次に集まったときにまた確かめる、くらいの気持ちで十分です。
施設に入ってもらう話ではないと伝える
介護の話をすると「施設に入れられるのでは」と警戒する親もいます。話し合いの目的は入居を決めることではなく、親がこれからどんな暮らしを望んでいるのかを家族で知っておくことです。自宅での暮らしを続ける、訪問や通所のサービスを組み合わせる、将来の住み替えを考える――そのどれを選んでも、間違いということはありません。
具体的な話より先に、気持ちを聞く
家族はつい、施設探しや毎月の支払い額といった、お金や手続きの話から切り出してしまいがちです。まずは本人の気持ちに耳を傾けることから始めると、その後の話も進めやすくなります。
テーマ1:これからどんな暮らしをしたいか
最初に聞いておきたいのは、親自身の希望です。改まった場面をつくるより、食卓での会話の延長のような聞き方のほうが、本音を話してもらいやすくなります。
- 「この家には、いつごろまで住んでいたい?」
- 「ひとりで暮らすのが大変になったら、どうしたいと思っている?」
- 「手助けが必要になったら、誰に頼みたい?」
- 「病院や介護について、こうしてほしいという希望はある?」
「住み慣れた家でできるだけ暮らしたい」と考える方もいれば、「子どもに迷惑をかけたくないから、そのときは施設に入りたい」と考える方もいます。どちらがよい、悪いということはありません。本人の思いを知ることが、介護を考えるうえでの出発点になります。
テーマ2:今の暮らしで困っていることはないか
先のことだけでなく、いまの生活ぶりにも目を向けておきましょう。離れて暮らしていると、電話では元気そうでも、実際には暮らしのなかで不便が増えていることがあります。
- 食事をきちんととれているか
- 薬を飲み忘れていないか
- 買い物に出かけられているか
- 掃除や洗濯がこなせているか
- お風呂に安全に入れているか
- 家の中や外で転んだことはないか
- 通院を続けられているか
- お金の管理や公共料金の支払いに困っていないか
本人は「大丈夫」と言っていても、よく聞くと負担を感じていることもあります。実家に帰ったときは、会話に加えて、冷蔵庫の中や薬の管理のしかた、郵便物のたまり具合、部屋の片付き方などもさりげなく見ておくと、以前との違いに気づきやすくなります。
テーマ3:家族はどこまで支えられるか
近くに住んでいるきょうだいがいても、毎日の介護を担えるとは限りません。仕事や子育て、自分の健康や家庭の事情もあります。
それぞれが「できること」と「難しいこと」を正直に出し合っておくと、いざというときに一人に負担が偏るのを防げます。たとえば、近くに住む人は通院の付き添い、遠方の人は手続きや情報集め、といったように役割を分けて考えるのもひとつの方法です。
テーマ4:介護にかかるお金のこと
どんな費用がかかるのかを知っておく
自宅で介護を受ける場合でも、介護サービスの利用料や通院の費用、福祉用具の費用などがかかります。施設に入居する場合は、これに加えて入居時の費用や毎月の利用料も考えなければなりません。介護が始まってから慌てないように、元気なうちから「どのくらいなら無理なく払えるか」を家族で共有しておくことが大切です。
親の収入や資産をゆるやかに把握する
お金の話題は、たとえ親子であっても、自分から切り出すのはためらわれるものです。だしぬけに「どれくらい蓄えがあるの?」と尋ねれば、親としても良い気分はしないでしょう。介護にかかる費用の話をしながら、次のような点を少しずつ確かめていくとよいでしょう。
- 毎月受け取っている年金の金額
- 手元にある貯蓄の状況
- 自宅や土地といった不動産の有無
- 家賃やローンなど住まいにかかる支払い
- 医療費や保険料などの固定的な出費
- 介護に回せそうなひと月あたりの金額
すべてを細かく家族に明かしてもらう必要はありません。ただ、おおよその見通しをまったく知らないままだと、施設を探す段階で候補を絞り込むのが難しくなります。
「お金はいくらあるの?」と尋ねるより、「施設に入るとしたら、どのくらいの費用なら安心できる?」「家族はどんなふうに手伝えばいい?」と、これからの暮らしの話から入ると、お金の話にも自然につなげやすくなります。
誰がどう負担するのかも話しておく
介護の費用を親のお金だけでまかなうのか、子どもが一部を負担するのかも、早めに確かめておきたい点です。「そのときは子どもたちで何とかする」とあいまいにしたままだと、実際に介護が始まったあとで、きょうだいの間で意見が食い違う原因になります。
家や土地をどうしたいかを聞いておく
持ち家で暮らしている場合は、住まいの今後についても親の考えを聞いておきましょう。施設への入居を考える段階になると、空いた家を売るのか、家族の誰かが住むのか、そのまま残しておくのかが大きな問題になります。すぐに決める必要はありませんが、本人の希望を知っておくだけで、そのときの家族の判断がぐっと楽になります。
テーマ5:「もしも」のときにどう動くか
「転んで入院することになったら」「ひとり暮らしが難しくなったら」など、いくつかの場面を思い浮かべながら話しておくと、いざというときに家族が慌てずにすみます。この時点で特定の施設名まで絞り込む必要はありません。「いざとなったら皆で集まって話し合おう」「最初に誰へ連絡を入れるか」を決めておくだけでも、十分に心強い備えになります。
施設のことは「限界になってから」でなくてよい
老人ホームは、在宅介護が立ち行かなくなってから探すものだと考えている方も多いかもしれません。ただ、施設についての知識がまったくないまま、急な入院や体調の変化をきっかけに慌てて探し始めると、十分に比較検討する時間もなく決断を迫られがちです。
情報集めを始めたい変化のサイン
- ひとり暮らしに少し不安が出てきた
- 転ぶことが増えてきた
- 通院や薬の管理が難しくなってきた
- 家事の負担が以前より重くなっている
- 物忘れなど、認知機能の変化が気になる
- 家族の手助けだけでは追いつかないと感じる
こうした変化が見えても、すぐに入居を決める必要はありません。どんな種類の施設があり、費用はどのくらいかかるのかを知っておくだけで、将来の選択肢は広がります。
比べるときは月額料金だけで決めない
施設を探すときは、できる限り出費を抑えたいと考えるのが、ごく自然な気持ちでしょう。ただ、表示されている月額料金だけを見て決めると、入居後に思ったより出費がかさむことがあります。施設によっては、次のような費用が別にかかる場合があります。
- 入居するときにまとめて払う費用
- 毎月の基本的な利用料
- 介護サービスの利用料
- 医療費や薬代
- おむつなどの日用品の費用
- オプションで頼むサービスの費用
親の年金や資産で無理なく払い続けられるか、介護の必要度が上がっても住み続けられるかまで含めて比べることが大切です。
タイプごとの違いを知り、見学もしてみる
高齢者向けの住まいにはいくつかのタイプがあります。介護サービスが施設に組み込まれている「介護付き」のタイプもあれば、外部の訪問介護などを組み合わせて使う「住宅型」のタイプもあります。ほかにも、比較的自立した生活を送れる方向けの住宅や、認知症のある方が少人数で共同生活を送るタイプなど、仕組みはさまざまです。費用はもちろん、受けられる介護や医療の密度、認知症への対応力、部屋の広さ、食事の内容、周辺の環境なども、タイプや施設ごとに大きく変わってきます。
親が「将来は施設も考えていい」と話してくれたなら、いくつかの施設を比べてみるのがおすすめです。まだ入居を決めていなくても、実際に足を運んで見ておくと、「ここなら親も落ち着いて過ごせそうだ」と思える候補が見つかることもあります。
介護は一人で、家族だけで背負わなくていい
介護は長く続くこともあります。「家族で何とかしなければ」と思い詰めると、介護する側の負担はどんどん大きくなってしまいます。
介護保険のサービスに加えて、地域包括支援センターや市区町村の介護保険窓口、ケアマネジャー、施設の相談員など、相談できる相手はたくさんいます。まだ介護が始まっていない段階でも、「将来こうなったら、どうすればいいのか」と聞いてみるだけで、家族の不安はずいぶん軽くなるはずです。
まとめ:「これからどう暮らしたい?」の一言から始めてみよう
家族が集まる時間は、親の介護について話し合う貴重なきっかけです。とはいえ、最初から施設への入居を前提にする必要はありません。まずは「これからどんなふうに暮らしたい?」と、親の思いを聞くところから始めてみてください。
本人の希望に加えて、いまの暮らしの困りごと、家族それぞれが担えること、介護に使えるお金、もしものときの動き方を少しずつ共有しておけば、実際に介護が必要になった場面でも、あわてずに幅を持って選べるようになります。
施設のことは、追い詰められてから慌てて探すものではありません。家族みんなで「親にとって心地よい暮らしとは何か」を考え続けることが、後悔の少ない介護につながっていきます。